「粕漬は元来、保存食でした。日本は古来、海とともにある国ですから、いかに魚を上手に食べるかの創意工夫は欠かさなかった。その成果の一つが粕漬です。味はしっかり沁み込んでいますので、粕は洗い落として調理を」とは、魚久の小澤美昭総務部長。
そう、向田邦子もエッセー内で、「味に自信があるのだろう、切身は必ず水洗いして、かすを取って焼いて欲しいという。その通りにしてみたが、実にいい味である」と言及する。粕漬をおいしく食べる大事なポイントだ。生活の細部に根付く愉しみや歓びに誰より敏感だった彼女が、この食べ方のコツを書き逃すわけはないのだった。(BUNGEISHUNJU 2015.9 p236と237の間の「名作 名食」より)文藝春秋 2015年 09 月号 [雑誌]