2016年2月13日土曜日

しゃぶしゃぶ

…そんな静かな一角で、元はお茶屋だった築150年の木造家屋が、どっしりとした存在感を放って佇んでいる。戦後ずっと、「十二段家本店」が暖簾を掲げ続けてきた建物である。

店の創業自体は大正時代にまで遡る。名物のお茶漬けで長らく知られたが、戦後すぐにここへ移転してからは、良質な肉を気前よく供するとして評判になった。

昭和22年には、新たなメニューと称して「牛肉の水炊き」なるものを編み出し、評判をとった。

中国の火鍋をヒントにした料理で、沸騰した鍋の湯に牛肉をくぐらせ、タレをつけて食べるもの。つまりは現在でいう「しゃぶしゃぶ」だ。

今ではすっかり定番中の定番となったこの牛肉の食し方は、同店を嚆矢とする。

(BUNGEISHUNJU 2016.2, 名作 名食)文藝春秋 2016年 02 月号 [雑誌]

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